■アンチ『ボーンアイデンティティ』を目指して

朝宮・話を戻すと、超短編として構想されていた作品が、３０分超になったのは？

湯魔・どこかの広場で「巻き戻してもらうぞ」「嫌だと言ったら？」という会話格闘スタート。ゾーイが勝ってＹＵＭＡが巻き戻しているシーンで終わり。という流れだけを考えていた。が、Ｋ君（レンタルショップ《ロメロ》店長役）もやりたいと言いだしたんだね。彼は格闘技に興味があったのだな、今にして思えば。で、キャラを増やすことに。すると今度は結城（一誠）君もちょい役で出たいと言いだして。新宿西口公園で練習したときにＫ君のハイキック（※03）が非常に良いことが判明し、ロメロに内定。

朝宮・ボクシングを披露している前原一人は？

湯魔・あれは経験者の前原君は使わないと勿体無いということで急遽「無言のボクサー」を設定したの。ただし喋らないのが出演条件だったので、セリフは一切なし。職場で暇なときに絵コンテ（※05）描いてね。このとき大変だったのが実際に「撮影できる」脚本でなくてはいけないということ。会議室って設定があったとすると、どこかの会議室を押さえないといけない。しかしどこも会議室は高くて、井の頭公園のブランコになったり。結果としてその方が良かったのだがね。撮影は全てゲリラなので(※06)、人が少ないところを選ぶ必要もあったし。

朝宮・大学時代は映画研究会だったわけだけど、そこらへんで培ったスキルというのは活かされてる？

湯魔・『ＳＰＲＯＵＴＳ』(※07)（湯魔学生時の監督作品）の時は大学近くの喫茶店を借り切ったけど、今はそんなことやる元気ない（笑）。出演者のストレスも考えて、滞りなく楽しく撮影するってのが自主映画の肝なのだ。『ＳＰＲＯＵＴＳ』はタランティーノと北野映画へのオマージュ。

ＥＪ・それは冒頭によく出てる。

湯魔・で『ＲＥＷＩＮＤ』はジャッキー映画のオマージュだね。そのうちロメロも撮りたいけど、君らが『ＫＩＬＬＥＲ ＭＵＲＤＥＲＳ２０００』（※08））でやってるからいいや。

朝宮・ロメロじゃないよ、あれはフルチだよ！

ＥＪ・フルチなの！？

朝宮・あの科学実験室、あの白衣の男、ありゃあどう見てもルッキオ・フルチですよ。ではジャッキー映画を再現するにあたって、特に気をつけたポイントは？

湯魔・カット割りの早さだね。『ボーンアイデンティティ』のような超速カット割りは愚の骨頂。あんなのはアクションじゃないです。どっちが勝ってるのかがまるで伝わらない。終わったときに立っていた方が勝ち。あれは技術がない。功夫の妙がないよね。

朝宮・一方で古典カンフー映画みたいな長回しもあるじゃない。

湯魔・長回しは「京劇」ぽく見えるが、引きの映像なので粗も見えてしまうのだ。「テンポ合わせて仲良く闘ってるなあ」ってのがわかってしまう。それはそれでまずい。

朝宮・あくまで理想のカット割りはジャッキー映画だと。

湯魔・ジャッキーを超える人は今後も出てこないだろう。あれは常軌を逸した天才だよ。すべて計算され尽している。そこらへんは前原君と一緒に見返しながら研究しましたね。前原君は分析肌だから非常に参考になった。