結城一誠過去作品展示
INDEX ABOUT INFO CONTENTS ARCHIVE BBS LINK
REVIEW: TOP > INDEX > ARCHIVE > MOVIE
江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間1969年:92分:日本
ジャケット

+INTRODUCTION+
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(えどがわらんぽぜんしゅう きょうふきけいにんげん)は、1969年10月31日、東映配給網により“異常性愛路線”の1作として劇場公開された怪奇映画。監督石井輝男、主演吉田輝雄。カラー99分。製作東映(京都)。江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』と『孤島の鬼』をベースに、『屋根裏の散歩者』などの諸作品をミックスしたストーリー。地上波では未放送で日本ではソフト化されていないが、根強いファンを持つカルト映画である。

引用元:WIKIPEDIA
監督
石井輝男
原作
江戸川乱歩
脚本
掛札昌裕
石井輝男
撮影
赤塚滋
編集
神田忠男
出演
吉田輝雄
由美てる子
土方巽
葵三津子
小畑通子
大木実
CURRENT INDEX
第七回
第九回
AHEADINDEX
●リレー連載映画レヴュウ/第八回 『『恐怖奇形人間』
 広介、貴様も奇形人間になぁるんだぁよ!

乱歩
これを読んでいる人の中には、江戸川乱歩のファンもいるかもしれない。
 昔はよく小学校の図書館に揃っていたものだが、ポプラ社発行の『少年探偵シリーズ』を覚えている方はいるだろうか?
 怪人二十面相が引き起こす数々の難事件を、名探偵明智小五郎と少年探偵団が解決してゆく。シリーズのほとんどはこのパターンの繰り返しなのだが、ぼくは小学生の頃(驚くなかれ、もう20年以上も前だ。まだマイケルジャクソンは黒人スターだったし、ビルゲイツのマイクロソフトとて、まだまだやっと芽が出た程度だった)すっかり夢中になり、次々に読み漁ったものだった。何なら小型の辞書といっても差し支えのないぶ厚い『少年探偵シリーズ』はランドセルに入れて帰るといつでも重たいのだった。
 今でもぼくは覚えているが、最初に読んだ乱歩の小説はポプラ社の『電人M』だった。数多くの子どもの手に渡ったので、表紙はすべっこくなり、角は潰れていた。そこにはトランシーバー片手に首をかしげる小林少年と、トランジスタらしき機材を頭につけた、赤いロボットが描かれていたはずだ。
 最近になって表紙の絵も新しくなったようだが、ぼくは断然、あの頃の妙に濃い絵の方がすぐれていると言って譲らない。あの独特の擬似西洋(それも日本が夢見た西洋のイメージだ)めいた表紙のいかがわしさこそ、誰が何と言おうとも乱歩の醍醐味なのだ。
 そういうわけで長い事、乱歩といえば児童文学作家とぼくは勘違いしていたのだが、中学生の頃になって、春陽堂の乱歩文庫と出会って、すっかり認識を改めなくてはいけなくなる。

『人間椅子』『屋根裏の散歩者』『陰獣』『黄金仮面』『人間豹』などなど、日本の探偵小説の先駆者としての乱歩である。大正から昭和にかけて、東京がもつ独特の空気を――大道芸・幻灯・見せ物小屋・サーカスなどなど――浅草や下町を舞台に、乱歩は描き出した。それら独特の夢想世界は陰鬱で、そして魅力的でもある。
 長じて世界文学に目を通すようになったぼくだが、あの湿ったような乱歩の世界は、やはり彼独自のものだった。そこでは謎の仮面男が夜を徘徊し、一寸法師の影が踊り、腹話術の人形が喋りだす世界である。
 それら「いかがわしいもの」達による虚虚実実の世界といえば、イタリアの映画監督F・フェリーニがわずかに近いかもしれない。フェリーニもまた見世物の世界を映画の上に投影した人間であり、現実というもののリアリティをあの手この手で崩すような人だった。それとて乱歩のあの湿っぽさはないけれども、どちらも「見世物」めいた作家なのである。
 だが既にフェリーニも亡くなり、大道芸というもの自体が、われわれの日常から遠ざかってしまった。ノスタルジーという言葉はあまり使いたくはないが、我々の前には、彼等が残した幻があるだけである。どうもぼくは、いささか懐古的だろうか?何かまうものか、昨今、体験してもいない昭和三十年代を懐かしむような、理解に苦しむ連中は大勢いるのだ。
 あれは高校生の頃だったから1994年の話になるが、その時期あたりに乱歩作品の映画化が立て続けに起こった。いくらかはぼくも観ているはずなのだが、皆、可も不可もなくといったところだ。
 ただサブリミナル効果を意識したカット、二人の監督による二バージョン公開、劇場でのフェロモン混じりの香水散布など、珍しい演出が印象的だった「RAMPO」(1994)だけは別である。作品が成功しているかどうかはともかく、《いかにも》な演出は見世物もかくやという感じだ。
 これを書いている今現在も「INJU」(2009)というタイトルで、どうやら乱歩の「陰獣」が映画化の予定らしい。しかも今度はフランス人による制作ということだ。まだまだ乱歩は健在なのである。

NEXT→
-1-

Copyright c2007 FLYER All right reserved.
画像使用について問題がありましたら「ABOUT」内メールフォーム、もしくはBBSにてご一報下さい。