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●リレー連載映画レヴュウ/第八回 『『恐怖奇形人間』 広介、貴様も奇形人間になぁるんだぁよ!
ジャケット

 そんな乱歩だが意外にも生まれは東京ではなく三重県である。同じ出身として言わせてもらうならば、三重県には伊勢神宮とパルケ・エスパーニャを除けば(三重県にスペインが定着するにはまだあと二世紀ほどはかかりそうだが)、あとはごく平凡な田舎町があるだけである。人々は関西弁に似た言葉を喋り、
「なあなあ、そんな乱歩の事なんか喋っとらんと、はよジャスコ行こにー」
 と言葉の最後に「にー」をつける。そして「猫」と言うときには、アクセントは決まって「ネ」ではなく「コ」の方につけるのである。
 乱歩に果たして郷土愛というものがあったかどうか、その点は疑わしいが『パノラマ島奇談』という本にはM県I湾(三重県の伊勢湾)に浮かぶ不思議な島の話が出てくる。それこそ、今回ぼくが言いたかった話なのである。

 ■大富豪、菰田源三郎という男が死去した。たまたまそれを知った小説家、人見広介だったが、彼は源三郎とは同級生の関係であり、当時から双子だととからかわれるほど瓜二つの顔立ちだった。源三郎の死を機に、広介は誰もが考えつかない大犯罪を実行に移す。すなわち死者との入れ替わりである。
 源三郎の土葬の夜、広介は誰にも気付かれずに墓を暴き、まんまと死者に成りおおせるのだった。死んだはずの主人が生き返ったというニュースに菰田家は大喜びする。
 やがて源三郎として菰田家の財産を手に入れた広介は、自分の長年の夢をいよいよ実行に移す。それは彼の白昼夢の実現とでも言うべきパノラマ島の建設なのだった。
 
 さて、やっとここからが映画本編の話になる。今回紹介するのはこの『パノラマ島奇談』を下敷きにした石井輝男監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)である。全集というだけあって、『孤島の鬼』『人間椅子』『屋根裏の散歩者』などそれ以外の作品の要素も入れながら、いわば乱歩の世界をまとめて解釈したような楽しい映画になっている。

吉田輝雄

 この映画の魅力は、監督と登場人物の「真剣さ」に尽きるだろう。なにしろ登場する誰一人として力を抜くことがないのだから。演技が真剣であればあるほど、濃いキャラたちが空回りするさまは面白くて仕方がない。
 一体どういう理由か、精神病院に隔離された主人公、人見広介から映画は始まる。彼を演じる吉田輝雄の演技からしてもう笑わせてくれる。 
「俺はキチガイじゃない。東洋医大を出た外科医の卵だ」
 本当はもう気が狂っているのか、それとも間違いで病院に隔離されているだけなのか、正気と狂気の境目で悩む広介だが、その全力ぶりは妙にズレている。これだけ人生に対して力を抜かない人間なので、何かの拍子に突如鬱になるのではないかと心配になるほどだが、そんな声はお構いなく映画の最後まで、吉田輝雄の怪演は続く。
 源三郎のふりをして墓から掘り出されるときにも、
 足の裏にある謎の卍形の痣を按摩さんに指摘されたときにも、
 妻と二人で愛し合ったあとにも
 彼はいつでも真剣なのだ。

吉田輝雄

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