「好きな映画は?」初対面の人間と話が行き詰まった際に出そうな何とも薄っぺ
らい質問である。頭の悪いOLあたりは【タイタニック】とか【東京タワー】とか
言うんだよ。げんなりだね。結局【好きな○○】は映画じゃなくても本でも音楽
でも体位でも何でも良いのだろう。
要は共感できれば同じコミュニティに入れるんですから、通行手形を得る為にそ
ういった質問をするわけです。辟易しちゃう。
しかしその質問が私に向けられた場合、そんな簡単なことでは済まされないのだ。
合コンでそんな質問を私にしようものなら(合コンなんて行かんが)19時から翌
朝3時まで応えてやる。始発の電車がまだ無い微妙な時間に開放してあげよう。
それくらい「好きな映画は?」というのは実に難しい問いなのだよ。
一番好きな映画、一番面白い映画、一番秀逸な映画 これはどれも別でしょう。
また、別であるべきだと思うのだ。映画といってもそう容易く纏めることなん
ざ出来ませんて。
一番秀逸だと思う映画は?と問われればきっと「ミツバチのささやき」と答える。
一番好きなアクション映画は?と問われれば「酔拳U」と答える。
一番好きなホラー映画は?と問われれば「死霊のはらわた」と答える。
では、ただ単に一番好きな映画は?と問われれば…
ソナチネ である。
この映画が世間でいったいどれくらいの評価を得ているのかはわからないが北野
武の撮った映画の中で私はこのソナチネが一番素晴らしいと思う。
北野武の映画の中でも映画の出来として一番秀逸なのは?としつこく聞かれたら
ばきっと「キッズリターン」と答えることでしょう。それくらいキッズリターン
は丁寧に上品に作られている。しかし北野映画の真骨頂はそんな丁寧とか上品と
は全く別のところにあるのですから、矢張り一番素敵な北野映画はといえばソナ
チネになってしまう。
北野武の監督第4作目ソナチネは一口に言うとバイオレンス映画である。
日本におけるバイオレンス映画といえばヤクザ映画がそれに当たるのだが、武の
映画は一味も二味も、というか全然違う。そもそも「バイオレンス=暴力」をどう解釈するのか。
一般的なヤクザ映画だとどうしても視点が「強大な暴力」に寄りがちで、体のでかい奴や
武器を沢山持ってる奴が他方を一方的に打ちのめして終わる。
組と組の抗争なんてのは強いもん同士がドンパチして派手に撃って派手に血が飛べば
それでOKなのです。 まぁそういう任侠映画の持つ独特の雰囲気に酔えればこう
いった映画もちゃんと楽しめるのですがね。
ところが武映画の描くバイオレンスは全く趣旨が違う。そもそも武本人が演じる
主人公はいつも「死」にベクトルが向いているのだ。
武演じる主人公村川は北島組の幹部である。
村川の存在が邪魔になった親分と組幹部高橋の策略に嵌められ沖縄へと追いやられる。
そこで待っていたのは逃れようのない銃撃戦と親分の放った殺し屋。
嵌められたことに気づきながらも村川は定められた運命であるかのように己の死の時までを
甘んじてその日々を送るのだが…。
では具体的に他のバイオレンス映画との違いを説明してみましょう。
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