長年住みなれた関西を離れることになり、目下引越準備中である。
ご存知のとおり引越しというのは面倒なもので、あれこれの雑事がわっと押しよせ、ただでさえ容量の多くない私の脳は悲鳴をあげ続けている。
私の代わりにどこか遠くへ引越してくれる、真の意味での引越業者がこの世にないものだろうか、などと詮ないことを考え考え、煙草のケムリばかり眺めて暮らしているのであるが、そんなある晩ふいに玄関の扉がノックされ、開けてみるとそこには故・円谷幸吉氏を思わせる風貌の結城一誠が立っていた。
一周まわって奇妙キテレツに変色したリレーのバトンを差し出し「あんたの番だ」と詠うように叫ぶのである。ご近所の目もあることだし、こればっかりは忙しいからまたにしてくれと断わるわけにもいかず、こうしてレビュー第6回を書いているわけなのだが、さてここでひとつ予めお断りしておかねばならないのは、今現在私は最寄りのレンタル屋に出入りできない情況にある、ということである。
レビューを書くからにはこれと決めた作品をレンタルし、あたらめて精細に鑑賞したうえで筆を起こすのが筋だろうとは思うのだが、今の私にはこれが封じられている。レンタル店に行けないのである。
理由はまあ云うのもバカバカしいお話で、二泊延滞したDVDを二本、そのまま返却ポストに入れてきてしまい、行くとおそらくは延滞料金を請求されるからなのだ。ナアンダ数百円の延滞料くらい、と思われるでしょう。私もそう思う。
ただ、行けばきっと茶髪の若い店員にジロリッと睨まれ「あなた、延滞しているのに返却ポストに入れましたね」ときつく叱責されるであろう、そのことがたまらなく怖ろしいのである。想像するだに手足が震えて、目が眩み、とてもじゃないが行けやしないのである。いかんなあ。
こういう些事から人間は犯罪に走ったりもするのだろうが(乱歩の名品「虫」をお読みいただきたい)、とにかく自宅から徒歩三分、一本160円という便利なレンタル店がこれで二度と使えなくなった。
かといって遠方(VHSの殿堂北大路)のレンタル店にまで足を伸ばすほど、現在の私には気力も体力もありはしない。
そうなると残された道はひとつである。自宅に所蔵しているVHSからめぼしいものを発掘し、そいつをレビュー対象とするしかないのだが、さて虚心に我がラックを眺めまわしてみて愕然となった。
まったくろくな映画がない。
トビー・フーパーの『スペースインベーダー』、ドン・コスカレリ『ファンタズム2』、そして恐るべきルッキオ・フルチ翁の『ザ・リッパー』――。これなどはまだマシな方で、『ロッキー』の駄目パロディ映画『リッキー』だとか、Z級香港ホラー『養鬼・悪魔の胎児』だとか、誰が観るんだというような映画しか並んでいない。『キョンシー大魔王』、『テラービジョン』、『スペースレイダース』『悪魔の毒々サーファー』、もうレビューを書く以前に封を切る気も起こらないような、無残なタイトルばかりである。
もともと下手物趣味が高じて買い集めたものだから、身から出た錆といえばそうなのだが、これじゃあアンマリではないですか。三度しかないリレーレビューの貴重な一回をこうした映画で埋めてしまって良いものだろうか。いや、良いはずがないのである。かくしてラックを探ることさらに十分余、やっとこれならば、という映画を発掘した。
幽霊屋敷映画の隠れた傑作『チェンジリング』(ピーター・メダック監督)である。
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