●プロローグ
今年の2月5日より15週に渡って綴られてきた五人によるリレーレビューもいよいよ終局の時を迎える。今回私結城が僭越ながら締めを務めるにあたって(まあ順番で一番最後なのだから)取り上げる映画は、無謀にも初見のものである。1986年に公開された吉田喜重監督作品『人間の約束』。吉田が『戒厳令』以来13年ぶりにメガホンを取った劇映画である。
何故にこの映画でなければならなかったのか。それは追い追い表し示すことにして、敢えてこの手の映画に手を出すということに付随するのは、直感まるで博打にでも出たような感覚である。吉田喜重といえば、古くは『秋津温泉』、『日本脱出』、『エロス+虐殺』、『煉獄エロイカ』、『さらば夏の光』、『告白的女優論』、そして『戒厳令』と1950〜70年代に掛けて評価の高い作品を数々発表している日本の代表的な映画監督の一人である。
その吉田喜重が10年以上もの間を空けて、この作品を撮るに到った理由は不勉強なので知り得るところでないのだが、昭和初期の二・二六事件と思想家・北一輝を取り上げた前作の『戒厳令』(当サイト・映画レビューアーカイヴ収録の筆者によるこの作品のレビューを参照されたい)とは一変して、この映画で取り上げられたテーマとは人間の<老い>である。具にすれば<老人性痴呆>、いわばアルツハイマー性認知症に冒された老親を抱えた家族模様である。従って、映画の内容は重く翳りのあるものであり、謹慎なく軽々しく切り取っては語れるものではないのだが、敢えてそこを自らの言葉でえぐり取りたくなるのも、レビュー展開にあたっての素直な感情であろう。かといって尖鋭なる社会派の批評ができるという頭があるわけではないから、深刻なれど美を秘めた映像空間と思わず反語を催す遊戯空間とをさ迷いつつ、私感本位に筆を畏れながらに進めることにする。
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