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●リレー連載映画レヴュウ/第六回 『チェンジリング』”
ジャケット

 何かがチェスマン館には憑いている。きまって六時に鳴り響く怪音、溢れ出る水、階段を転がってくる赤白のボールなどでそれは暗示されるが、姿を現すことも、言葉を伝えることもしないため、主人公はどうすることもできない。敵対することさえできないのである。
 先にこの映画にはどこか北方型の感性がある、と指摘したのはまさにこのあたりで、『チェンジリング』には人間と同等かそれ以上の扱いで、人間以外のものの目線が入りこんでいるのである。敵とも味方とも云えない、意思疎通のできない相手が厳然とすぐそこに存在し、こちらをジッと見詰めている。この足許がグラつくような感じ。人が万物の霊長ではないと思い知らされる瞬間の心細さ。
 『チェンジリング』はそうした恐怖を映像化しえた、稀有な作例なのである。

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屋根裏部屋 実話怪談的な展開の白眉は、なんといっても主人公の作曲家が屋根裏部屋でオルゴールを見つけるくだりであろう。  庭に出た主人公目がけて窓が割れ、破片が降りかかってくる。見あげると立ち入ったことのない屋根裏部屋からである。打ち付けられた板を破り、錆びついた南京錠を叩き壊して中へ立ちいると、そこには埃の厚くつもった狭苦しい小部屋があり、古めかしい子供用の車椅子が置かれている。
 「1909年」と記された幼い字の日記帳、マッチ棒か何かで作られた貧相な人形、その脇に無造作に置かれたオルゴール。

 この屋根裏部屋の描写など見ると、つくづくピーター・メダックという男の怪談的センスの高さに唸らされる。屋根裏にある封印された部屋、これ自体はよくある設定だが、よくもまあこれだけ陰気な部屋のセットをこしらえたものだ!
 車椅子だけではそう怖くはあるまい。しかし小さなサイズの、大昔のものらしい籐製車椅子となればもういけない。何か触れてはいけない領域に入ってしまった感が、ヒシヒシと肌身を通じて伝わってくる。

リングの如く・・・ そこで見つけ出したオルゴールを鳴らして、主人公は愕然とする。
 ここ数日来ピアノに向かって作曲してきた曲が、オルゴールから流れた旋律とまったく同一なのである。自分でそうと気付かぬうちに、主人公の思考と行動は屋根裏に憑いたものに支配されていたので、これは我が身に起こったらさぞ怖かろうと思う。

 さて、もしここで終わっていたならば『チェンジリング』は文句なしに純粋恐怖映画の金字塔であった。
けれど、まだ映画は半分以上残っている。長編映画という問屋は、理屈のつかない物語を卸してはくれないのである。
 オルゴールの一件が気にかかった主人公は、かつて屋敷に住んでいた少女が交通事故で死亡していることを探り出し、降霊会を開いて死者の訴えを聞こうとする。
 しかし、祟っていたのはその少女ではなかった。ジョセフと名乗るまったく別の少年の霊であることが降霊会の録音テープから判明する。(このあたりの二段構えが『リング』と同巧であり、民家の軒下からジョセフの白骨死体を掘り出すくだりに到っては双子のようによく似ている。)
 そこから先はジョセフ少年の祟りを鎮めるために、主人公が上院議員(足の悪いジョセフを殺して替玉として遺産を相続した悪人)と対決する、という方面に話が進んでゆくので、前半部に比べるとやはり大味であり、せっかくの鬼気はずいぶんと薄れてしまう。

 終盤ヒロインが無人の車椅子に追われるシーンなどまったくなくもがなだが(前半のストイックさから一転、堕落して即物的な恐怖に走っている。メダックよ、風邪でも引いていたのか)、瀕死の上院議員が心臓をおさえて倒れこんでいる同時刻、そのドッペルゲンガーが炎上するチェスマン館へと、静かに歩み入ってゆくラストは見事だ。
 娯楽性に配慮しながらも、前半の不気味さを殺すことなく逃げきった恰好である。

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