結城一誠過去作品展示
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●リレー連載映画レヴュウ/第二回 『ファニーゲーム』
前原一人
ジャケット


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 さて、最初のコント染みた「卵」のやりとり。
結果的に卵は全て割れてしまう。何故12個全てをパウロではなくトムが割ってしまったのか。トロくさいから?それだけとは思えない。
 そもそも、何故「トム」は”トム”という名が与えられなくてはならなかったのか。
パウロが椅子に座り訳知り顔で傍らのトムの行動の動機を語る白々しいシーンは皮肉に満ち先行する「ホラー映画」への罵倒ように聞こえる。
 曰く「親父はアル中」で「兄弟五人全てがヤク中」「お袋は坊やにべったり・・・おかげでこいつはホモ」といった生い立ちを語り、また「甘ったれの腑抜け野郎」「人生が厭」「世間が憎い」「自分がむなしい」と続く。
けれどもここではあけすけな皮肉以外にもう一つの隠喩的効果が目論まれている。劇中パウロとトムがふざけて互いを「トムとジェリー」と呼ぶシーンがあるのだ。
 「トムとジェリー」に観られる陽気な残虐性とファニーゲームを同等の地点で比較させることでの皮肉がまず読み取れる。
 次に「トム」と”トム”は駄洒落に留まらない。何故駄洒落に留まらないか、それは先のエピソード、パウロが訳知り顔で語るトムの生い立ちがここでのやり取りに影を落としているからである。「トムとジェリー」と相まって、先の動機とやらも実にアメリカ映画的な言い草ではないか。
 彼はアメリカ映画(ハリウッドが牽引するようなエンターテイメント)という記号の化け物なのだ。
 だから、「トム」は”トム”でなければならない。
 別荘にあった12個の卵を全て壊してしまうのは、パウロではなくアメリカ人名を冠されたトムでなければならないのだ。
 それは穿ちすぎだ、と言えるだろうか?
 オープニングのイントロクイズから常に幾重にも重ねてくどいほどに意味を含ませてきているのだ。もう幾つか証左となりそうな事柄を提示しようか。
 数え上げるに劇中犠牲者となる数は(冒頭で犠牲となる犬と予見された犠牲者も含め)12人である。
 だから、トムが割ってしまう卵の数は、12個でなくてはならないのだ。
 そもそも何故「卵」でなくてはならなかったのか。
 「エンゼルハート」で語られていた「卵=魂」のメタファーを思い出す。
 だから、物語のきっかけとなるのはパンではなく「卵」でなければならないのだ。

 トムの名にアメリカ映画というメタファーが込められていたように、パウロにも当然何かしら隠された意味があると見ていいだろう。
 「「最後の晩餐」に連なった十二使徒の中には数えられない「(WIKIより引用)」自称使徒であり聖人パウロ。これが妥当のようだ。

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 しかし、確かに穿った見方ではなく、変に複雑に考えず「暴力は理不尽だってことを特異に描ききった作品」で終わることもできる。
 ・・・そうか?本当にちょっとしたギミック、仕掛けとして選択された演出だろうか?
 暴力の理不尽さをSF的ギミックを持って演出した、というのも一理あるだろうが、しかしそれだけでは納得いかない点が数多くあるのである。
 物語内世界の外部世界、いわゆるマトリックス的世界観を拡大したものだろうか。
 トムが語るサイバースペースのエピソード。
 虚構と現実は実在的に区別することは不可能であるが、一方は虚構だと証明しえると語る。
 つまり、一方が虚構であれば、他方は現実という在り方を示す。
 このコギトへと至る虚構と現実の二項図式には隠された第三項が存在するからこそ成立している。
 虚構と現実の二項対立に際して隠されている第三項は身体性の確信だ。
 そもそもこの身体性の確信があるからこそ可疑性は成立し、「夢(虚構)だろうか?」と疑いえる。
 身体による確信があるからこそ、この感覚への疑いは成立し、虚構という観念を呼び込むことができるようになるのだ。
 こうした疑いにより「我」という「内面」が作られることとなる。
 この確信を欠いた内面である我が外部を認識し、外部という観念を形成していき、虚構と現実という二項対立図式は出来上がる。
 それゆえ「疑いえる」と、一方を虚構だと証明し排他的に他方が現実であると倒錯した観念を生み出していくのだ。
 さて、一方は虚構だと証明しえる、と聞いたパウロはこう尋ねる。
 ヒーローは虚構と現実のどちらにいるのか、と。
 トムはサイヴァースペースのヒーローが虚構であり、家族が現実だとトムの内在する物語内のリアリティに即して答える。
 が、パウロは虚構は現実なんだろ?と返してしまう。
 このままだと次の「虚構は現実と同じくらい現実だ」という台詞は謎めいたまま終わってしまう。

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