結城一誠過去作品展示
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●リレー連載映画レヴュウ/第二回 『ファニーゲーム』
前原一人
ジャケット


 CDが再度入れ替えられつつ劇中に流れているはずの楽曲はモーツァルトの五重奏なのだが、ここで実際観客の耳に入るのはJOHN ZORN and NAKED CITYによるBONEHEAD。アルバム名は「GRAND Guignol」。
 グランギニョルは「観客動員数ばかりでなく、「観客のうち何人が失神したか」も劇の成功・不成功を測る尺度だった。(WIKIより引用)」とあるようにケレンミたっぷりのゲテモノ小屋だ。この劇の末路は「映画などとの競争に敗れる形で閉鎖された。」とある。

 単調な木々の間を貫くアウトバーンを駆る車に合わせ奏でられるオペラから、モーツァルトに被せタイトルと同時に掛かるJOHNZORN。「さて、これからグランギニョルが始まりますよ」ってわけだ。

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 オープニングから観るに、感覚ではなく圧倒的に”頭”で作りこまれた映画のようだ。インテリゲンチャの手により出現したこのグロテスクなゲーム。目には目を。インテリゲンチャにはインテリゲンチャで対抗してみよう。
 インテリゲンチャを一言で表すならば「現実的世界喪失の観念的自己回復(笠井潔「テロルの現象学」P33作品社)」これに尽きる。このように在るのがインテリゲンチャだ。この倒錯した自己回復が吐き出す更なる観念と現実との在りよう。「映画」という観念、作品テーマとして掲げられている「映画(メディア、エンターテイメント)と暴力」という問いがなぜこれほどまでにグロテスクな形で立ち現れたのか。「ファニーゲームはいかに在るか」という社会学的問いかけではなく、「何故こうあらねばならないか」という哲学的アプローチで記述していきたい。そうすることがこの「グロテスク」さを語りうる最良の手段と考える。俺にしてみれば「呑気に映画なんか楽しみやがって」と喧嘩を売られたようなもんだ。一発くらい殴り返してやれれば本望だ。

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 オペラからグランギニョル、そして始まった映画へ。オープニングが示す映画へと至る道に習い、映画へと至るより大きな枠組みでの「エンターテイメント」について考察してみよう。
エンターテイメントを成立させるために決して欠けることのできない必衰条件が「安全性」だ。被験者の無事が確保されていること。
 安全性が確保されていたとしても詰まらないものが沢山ある?確かに。だが、それらが示すのは、「成功/失敗」という評価が付き纏うエンターテイメント特有の特徴であり、エンターテイメントと安全性の関係を切り離しうるものではない。この関係とは、安全なものは全てエンターテイメントとなりうるとういことをも示す。安全である限り人は何でも楽しめてしまう。このことが今回ファニーゲームを語る上で扱うテーマへと至る。



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 ゲオルグとアナ、その息子のショルシーに飼い犬のラルフィ。三人と一匹が休暇を過ごす湖畔の別荘が物語の舞台となる。 (湖畔の別荘で起こる惨劇と言えば13日の金曜日に代表されるホラー映画の数々の定番だ。)
シーズンごとに会う近隣の知人友人が入れ替わり立ち代り一家の元に挨拶に来る。スクリーンに姿を現すのはフレッド、エファ、シシーのべリンガー家。そして、対岸の別荘地にいる一家でゲルダとその妹にロバートの三人が湖をボートで渡り訪れる。スクリーンに登場はしないがロバートの息子と恋人も別荘にいるらしい。
平穏を絵に描いて額に飾ったようなのどかさ。しかしパウロとトムがゲオルグ一家の元に現れることで地獄絵図と化していく。
 物語の導入は極めて奇妙で滑稽にすら思えるやりとりで始まる。
 父と息子がボートを湖に下ろす準備をし、妻が台所の整理を始めているところへべリンガー家からの使いと名乗るトムという青年が、ゲオルグ家に4つ「卵」を貰いにやって来る。
 どこかトロい印象を与え人を苛立たせるこの小太りの男は卵を貰うなり床に落として台無しにする。
挙句厚かましくも、「お宅には1パック12個あったでしょう?」ともう4つ「卵をくれ」とのたまう。
 呆れ果て苛立ちつつも観念し4つ渡す。と、今度は犬に吼えられビビッて落として割る。
 トムは連れの男、パウロと再三登場し最後の4つ「卵」をねだる。
 「卵を下さい」、「帰って」のやり取りが続くうちにご主人のゲオルグと息子がすっかり騒然とした場に駆けつける。
 夫人がほとほと厭になりこの場から姿を消した途端、パウロはそれまでの慇懃さを捨て汚らしく荒々しい言葉遣いでゲオルグに悪態を吐く。
 ゲオルグはついカッとなり平手打ちをするのだが、パウロはそれに対し度外れた報復と「ゲーム」を開始する。

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