結城一誠過去作品展示
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●リレー連載映画レヴュウ/第十一回 『アメリカンナイトメア』
ジャケット



オールスター
▼結局、このドキュメント映画にどれだけ妥当性があるかないか、というのはあまり目くじら立てて考えるべきことではないと思う。この映画のおそらく正しい見方は名監督たちの顔をジックリ眺めることだ。舐めるように眺めるのだ。ペロペロペロペロペロペロと。そうして声を聞くことだ。蝉が耳許で鳴くようにじっくりと。彼は皆恰好いいフレーズを口にしてくれる。
評論家 「ゾンビとは我々だ」
「私は正しいことをしてきたと思っている」
「ベトナムでどう撮れば怖くなるかを学んだ」
「恐怖のイメージは今でも頭の中で揺れつづけている」云々云々。
もうそれだけで充分だ。これは顔見世興行、外タレの来日を愉しむ気持で見ればそれで良い。アンプから音が出るだけで感動するロック中学生であればそれで良い。 映画には米国内大学教授連中まで出てきて、心理学、社会学、映画史その他あれこれとホラー映画について解説してくれる。傾聴したい人はすれば宜しい。したくない人はしなくて宜しい。彼らはスターの前座であるからね。

当事のニュース映像
▼「たかがホラー」という意見がある。それはそれで正しい。たかが人の命という意見もあるくらいだから。ただ断言しておくがあなたはホラーについて考え続ける必要があるはずだ。これを読んでいるあなたのことだが、どこで何をしている何歳の何者だか知らないが、とにかくホラーを頭から無視してはいけねえ。考えないと損をする。損をするどころか大変なことになる。地球が割れる。首が飛ぶ。ホーキング博士の眼鏡が割れる。ほんとだよ。
なるほど確かに糞つまらないものも多いです。酷いものばっかりだ。泣きたくなるよ。どうしてこうもああなのか。けれどもこう考えていただきたい。ホラーにだって顕教と密教とがあるのだ。このことは誰も云っていないようだから私が書くけれど。

▼顕教とはすなわち表の教えである。仏様のありがたーい教えをわかりやすーく説いたものである。「怖いって面白いよね」「ドキドキするよね」「テスト終わったら今度一緒に見に行こうよ。帰りにはクレープ食べよう」「また下痢するよ!」こういうホラーが顕教のホラーである。解りやすく云いましょうか。「着信アリ」とか「親指さがし」とかそういう奴である。なるほどこうしたホラーにもありがたーいホラー仏様の教えがごく薄まった形ではあるが入りこんでいる。一心に念じていればいつかはホラーの浄土へと到ることができるやも知れぬ。できないやも知れぬ。どっちにせよ五体投地の覚悟が必要です。

▼一方において本ドキュメントで紹介されたような「悪魔のいけにえ」あるいは「鮮血の美学」はホラーにおける密教である。これは一撃でホラー浄土へとあなたを導く。ただしあまりに強烈なので脳髄混乱、ゲシュタルト崩壊し二度と此岸へは戻ってこられないかも知れない。密教ホラーは深層まで突きささる。精神分析も心理学も何もかも越えて、一瞬で底の底の底の底まで到達する。たちまちのうちに外皮がめくれる。
ホラーとは安全な娯楽だ、というのはまさしく欺瞞だと思う。断言するがホラーはそんな毒にも薬にもならないものではない。だからといってホラーは危険なもので即座に排斥するべきだ、という意見もこれまた実に短絡極まる愚論である。愚論俗論痴論である。
刃物だって刺身を作れるし人だって刺せる。百万の刃物がズラリ天井向いて並んでいる光景を思い浮かべなさい。それがホラーというものである。
この世は遊びではないのだ。同様にホラーもまた一瞬たりとも遊びであったことはない。
少なくとも本ドキュメントで紹介されている作品においてはそうである。
「鮮血の美学」これを見よ。
「シーバース」これを見よ。
「ハロウィン」これを見よ。
「ゾンビ」を見よ。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」これを見よ。これら皆密教ホラーの経典である。とりわけ「悪魔のいけにえ」を見よ。あなたの前で煌めく仏壇の扉がゆっくりとご開帳する日も近い。

オシマイ
▼そうしてベッタリと血糊のついたバトンを前原一人に渡して消える。
リレーレビューも最後の一巡。老兵はさっさと消える。消えたい。消えます。さようなら。

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