結城一誠過去作品展示
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●リレー連載映画レヴュウ/第十一回 『アメリカンナイトメア』
ジャケット



クローネンバーグ
▼映画監督が沢山出てくるのである。皆とても良い顔をしておられる。結局外人は顔なのだ。腕力でも経済力ではない。まして精力でもない。ホラー監督はやはり顔である。
たとえばクローネンバーグだ。この冷徹な顔を見られよ。ああ並んだ百の子宮群がたちどころに凍りつく眼鏡の奥の暗黒理知だ。彼は云う。「革命は怖ろしい。しかし物事を変えるには革命も必要なのだ」と。矛盾ということ。両義性ということ。クローネンバーグは見るからにインテリですから自分の抱える問題系をはっきりと意識しておられます。明確な意図をもって映画を作っていることがこのインタビューから理解される。けれどもそうした問題系を抱えているからといって誰もがクローネンバーグのように撮れるという訳ではない。当然だ。
当然なのだがこういう物を見るとつい俺も、と思う人間が出てくる。そもそも両義性、矛盾というのはある種の幼児性の裏返しなわけで、生半可な人間ほどこういうものに引っかかる。でオチンチンだのオチンチンチンチンだのオチンチンチンチンチンチンだのを生ゴムか何かで作りましてクロ氏の「シーバース」の模倣作のようなのを撮ったとします。が。それが傑作になる可能性は万に一つも御座いませんな。勿論この映画がせっせと検証しているように時代の影響(60年代の性の解放運動)といったこともあったのであろうけれども、それだけでは当然ない。なるほどある程度までは還元されうるであろう。時代性や作家の意図や先行作品の影響というものに。
とはいえ幾ら還元していっても最終的には作品が厳然としてそこに残る。否、残らない作品はそもそも論ずるに足らぬ作品なのではないか、などということも考える。そういうことを思わされるドキュメントなのであります。時代性にたやすく還元されえない作品ばかりが面白いことに取り扱われている。

トビー・フーパー
▼実はですね、これを見た所為で「悪魔のいけにえ」がまた見たくなり借りてきて見た。のみならず「サイコ」と「ディレンジド」――すなわち「悪魔のいけにえ」同様に現実のエド・ゲイン事件に触発されて作られた(後者はそのまま事件のドラマ化だけれども)映画まで見返したくなってこれらもまた見て、ああやっぱり「悪魔のいけにえ」は特別だなと、そう想到した訳であります。どう特別であるかを説明すると本の一冊も書かねばならず、私にはそんな時間も体力も脳力も精力もありはしないので今はやめておきますが(しかし晩年には練丹道を極め異常性欲者として復活する予定であります)ともかく特別であると。
してみるとこれはモデルの所為ではないのですね。異常な事件を撮ったら、つまりは歩いている人をささっと獲っ捕まえてギャーと泣き喚く人をケケケとバラバラに解体して喰ったりもいだり切ったり繋いだりしてランプシェードを作ったり椅子を作ったり人皮でお面を作ったりする、そういう事件を映像化したら怖ろしいものになるという訳ではないわけだ。じゃあ何なのだ。お前は一体なんなのだ。そういう疑問は誰しも抱くわけで、そうした疑問の一端に答えようとしたのがある意味このドキュメントであるということになるだろうし、あるいは「悪魔のいけにえ」を見てどうもよく解らない、「サイコ」の方が面白いじゃん、ドンドンデンデンな筋がちゃんとあるじゃん、そもそも「悪魔のいけにえ」は叫んで逃げて走って追いかけてばっかじゃん、と思っている人も本作を見ることで何らかの新しい視角を得ることができるかも知れません。そういう作りになっております。ええなっておるのです。おるのですよ。

ジョージ・ロメロ
▼しかしどう考えてみてもやはりこの時代のホラーは特別である。私という人間は本当に愛のない人間で、ホラー愛もジャンル愛も映画愛もそもそも同胞愛も人類愛も異性愛も同性愛も何にもない宇宙から来たツタンカーメンの如き人間であるわけですが、それでもこの時代のホラー映画だけは無条件で頭を下げたくなるのであります。本作で紹介されている映画たち、「鮮血の美学」ああ!「悪魔のいけにえ」おお!「ゾンビ」うああ!
ホラーというジャンル総体がどうであるかという話は実のところ結構どうでも良い。ホラーについて語るのは大好きだしそれは語られ続けるべきことだろうとも思うのだが、だからこういうドキュメントを見もするし、この場で紹介もするのだが、結局のところジャンルホラーの行く末がどうなるかとか、ホラー映画の起源がどうで系譜がどうで影響関係がどうでとかいう話には、アンマリ興味が向かないのである。(雑学を持っている人間をなるべく軽蔑するようにと私は常日頃から心掛けている。)
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