結城一誠過去作品展示
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●リレー連載映画レヴュウ/第十回
YK的『機動警察パトレイバー2 THE MOVIE』考
ジャケット


●視点A…風景・群像描写

後藤と爆破されたベイブリッジ人物だけではない。「都市論客」としての押井守の本領発揮が、この映画での風景や群像の描写で感じることができる。
例えばP4の後藤が爆破されたベイブリッジをバックに荒川の「戦争と平和をめぐる語り」を回想するシーン。有事の状況に苛まれた都市がぼやっと墨絵のように佇んでいる。都市がまるで、都市としての機能を停め白痴のように膠着している様と、それに背反して都市生活者を戦慄させる脅威としての象徴を演じる様とが混同し、不気味に彩られた静謐な都市の風景、湾岸部の風景がそこにはある。廃墟とは似て非なる。廃墟として潔く化身できぬ都市の、デカい図体のままの生殺しのようなみっともなさが息づく風景。まるで、今の東京ではないか。と思わずぼやきたくなるが、それはさておき。
こうした風景描写が、押井の心象風景としての都市観と予期せぬテロという非常事態状況とが融合して成り立たせたものとするならば、これほど物悲しく、寂しいものはない。しかし、そこは東京であり、日本の首都である。アニメーションは有事により日本の到するかもしれない風景をいとも自然に描き出してしまえるのだ。残酷である以上に、何だ!?この映像が訴えかける重みと苦々しい空気のような声は。

保育園児と戦車、歩哨ショーウインドウ、非常事態
物語中盤P5〜7の画像が流されるシーン。度重なる非常事態に対して敷かれた戒厳の時。自衛隊による武装警備。朝を迎えた東京を黒い戦車が走る。普段と変わらぬラッシュアワー。戦車に手を振る保育園児達に手を振って応える操縦手。裏路地から大通りを通過する戦車を振り返る猫。川井憲次のスコアによるアンビエント調の曲に乗せ映される数分間の群像描写。単に日常の中に「非日常」が介在する風景、というだけでなく、現代の東京が見せる疲弊した群像とそれを透過して形成されたであろう押井の都市観を痛烈に感じるシーンである。
そこへ、アニメーションが可能にした突然の陽射しの如く、日常という天気図にペーストされた低気圧のように現れる軍備・武装という威力。反面、平和憲法下のシビリアンコントロールという永すぎた春に霜焼けを知らずに育った乳児の歩みのような頼りなげな体裁。都市観に加え、描かれる軍事威力は、戒厳法発令に至るエピソード「横浜ベイブリッジ爆破」「航空自衛隊バッジシステムの第三者介入によるハッキング」というバーチャルな空間における緊張感に比べ、えらく脆弱なものに見えてくる。不可視のテロルという脅威を前にして、もはや遅すぎた埋め合わせとでも言うべき感覚。
夜・雪の東京そしてP8の降雪風景。やがて戒厳下の東京に雪が降る。この映画では、後半部にかけて雪が大きな象徴となっている。雪の白さが都市の風景より一層引き締めているとともに、事態が醸し出す不安の散乱を抑制する役目を果たしている。が、しかし、である。状況は刻一刻と次に弾かれるピンボールに触れる羽根の動きを予感させつつ進行する。映像は、時間と空間が凍結を擬装し、人々が募らせる不安の飽和状態を孕みながら、解決の幻想すらも浮かばぬ「誰もが神」の状態を都市の風景、群像に投射する。しかし、後藤や南雲はその裏で解決のための実効的手段を練り、荒川はひそかに自身が用意したアナグラムの狂言解析を行いながら、彼らに同行する。やがて映画におけるフォーカスの的は状況描写に転位していく。

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