湯:まずですね皆さん。 ホラー映画といってもいろいろあるわけですが、
今回は皆さんが主役をつとめております
純正和製幽霊ホラーにしぼって
「どう演出すればより怖いのか」
というテーマで話し合って貰いたいと思います。これはお三方それぞれ譲れない部分でしょう
から白熱すること間違いなしですね。
女:負けませんわ。
伽:わたくしだって。
少: … …
湯:いまいち少女霊さんのテンションが低いですが仕方ありません進みましょう。
それではまず女優霊さんからより怖い演出を心掛けていた点やご自慢のシーンについて語っ
てもらいましょう。
ここで注意したいのは映画のストーリーや映画の面白さについては語らなくて結構だというこ
とです。
飽くまでも怖い演出方法という技術論についてのみ語ってください。 それではどうぞ。
女:そうですわねぇ。そもそもジャパニーズホラーブームの先駆けとなったのは「リング」でござい
ましょう。そのリングの貞子さんは私ありきの存在と言っても過言ではないのよ。
真っ白な長いワンピースに真っ黒の長い髪の毛。 これわたくしが最初ですのよ。
湯:ふむ。遡れば本当のオリジナルは別にありそうですが、まぁジャパンホラーのブームの火付け
役になった点では事実です。腰を折らずに先を聞きましょう。
女:あとはあれですわ。画面が切り替わった途端背後に
バッといる演出。これわたくしとても得意ですの。
劇中で、女の子役が監督に向かって手を振る。
監督も手を振り返す。
よおく見ると少女の後ろに… わたくしが!!!
いますのよっ!!! どう?怖いでしょう?(写真1)
湯:そうだね。あれは確かに良い効果があった。
これは心霊写真にも似てるよね。
よぉく見るといる。これは怖い。
伽:それでしたら私も負けてないです。
湯:おっと伽椰子さんも何か言いたげですね。どうぞ。
伽:後ろを振り向いたらそこに何かがあるというビックリ効果
でしたら私も負けていないというのです。
布団の中に何かがいる! そう私がいるのっ!!
(写真2)
湯:うん。映画呪怨の代表的なホラー演出のひとつだったね
あれは。
怖がる人々にとって布団の中ってのは最後の砦なんだ。
そこに君がいたんじゃ堪ったもんじゃない。
伽:そうでしょ。湯魔さんわかってるなぁ。うふ。
あとはほら私の息子の俊雄も良い演出してるのよ。
エレベーターに乗っている女が上に上がっていくたびに
エレベーターの各階の同じ場所で中を覘くのよ。
(写真3)
女:あら、それだったらわたくしだって…
湯:まぁ待ちたまえお二方。君らばかりが喋っているなぁ。
少女霊君にも喋らせてあげないと。
少: … … …
湯:ォホン… では僕の方から代弁しようか。
まずだね。伽椰子さんがしきりに自慢しているあっと驚かす演出。これは確かに怖いんだよ。
なぜならいきなり出会い頭に「わっ!!」と驚かされたら誰だって驚くだろう。
それはホラーというよりドッキリなんだよ。
ドッキリというのは飽きられるよ。最初の一回しか通じないんだからね。
また、エレベーターの写真3を見てくれたまえ。
この女優さんさ、伽椰子さんの息子さん俊雄君だっけ?彼のことまったく見てないじゃないか。
これじゃあ駄目なんだよ。 怖がらせる相手が観客だってことを意識しすぎだ。
ホラー映画、もとい幽霊映画というのはね、観客を怖がらせるのは勿論だが、
その時点でキャストを怖がらせることを飛び越えてはいけないんだ。
ここで言うエレベーターに乗っている女性がまず怖がらなくては駄目なんだよ。その怖がって
いる様を見て観客が怖がる、二段階でなければならない。
なぜならば、いくら観客の我々があっと驚いたとしてもだよ。
肝心のキャストがまるで怖がっていないんじゃ興醒めじゃないか。
映画というのは観客が世界に入り込む、
陶酔することによってより映画と観客との距離が縮まりキャストが体験したことが
あたかも自分に起こったことであるかのように疑似体験をすることが出来る。
特にホラー映画というのはアトラクション要素が多いんだから尚更なんだよ。
キャストが俊雄君を無視しているのにどうしてキャストと一体化して恐怖体験を感受すること
ができようか。
ここで正しい選択は、キャストさんが俊雄君に気づいてキャっと言って尻餅をつく。
有り触れた演出だが、観客を意識し過ぎてキャストを飛び越えるという愚行よりはマシってこと
さ。写真1の女優霊さんがやっている演出だって見てみたまえ。
この後のカットではちゃんと監督役の柳ユーレイさんがこの女優霊さんを視認しているんだ
よ。
伽:しゅん… …
女:なんだか湯魔さん、伽椰子さんに冷たくありませんこと? 少女霊さんはどうなんですの?
どうせ少女霊さん喋んないんでしょうから湯魔さん代弁していただけませんこと。
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