何かに忙しければ退屈ではなくなる。
 誰かといれば孤独は紛れる。
 アーネストが抱える虚無は自由であることと不安であることが同じ状況であることを示す。
 90年代多くの”ロストジェネレーション”等と呼ばれたそれの所以もここにある。
 歴史の共有は個人的であるはずのトラウマの共有に換わり、本来個人が言語化することで乗り越えられていくはずのものが既に彼の外部で言語化されており、彼は彼にはまだそぐわない自己像を獲得してしまう。
 彼自身乗り越えてはいない当人の困難を他者の言葉で自分の身に何が起こったのか理解してしまい、他者の言葉を頼りに乗り越えた気になってしまう。
 そうして他者の言葉で乗り越え、他者の言葉を頼りに形成され新たに獲得された自己像は、似たトラウマを持つ者同士が受け入れ共感することで彼の社会的自己像をも形成していく。
 過去の社会的できごとの共有ではなくトラウマの共有による歴史認識。
 本来社会的自己像とは現実的な他者との間で了解される誤解と錯誤、勘違いによりできあがる像だ。
 けれども誤解と錯誤という社会的自己像を形成し獲得する以前に、その小さなコミュニティーでの自己像が社会的自己像として錯覚される。

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