ズム、しかし観る者はそれをサディスティックに受容し勃起に至る。
フィルムに映る人の食事が嘔吐を催させたりするし、この世のものでなさそうな食い物が訳も分からず美味そうに見える。そういう効力のある映画は怖い。この『ツィゴイネルワイゼン』もその手の怖い映画なのか。  これも私的な観点だが、この映画は食うことを点として、それを伝って引かれた線を辿って物語が展開している。映画は作曲者のサラサーテ自身が弾く「ツィゴイネルワイゼン」のレコードに、サラサーテが何事か聞き取れない声で喋っているのが吹き込まれているという会話から始まるが、とはいえ結局この映画、この声の謎を紐解いてくというミステリーではない。あくまでも地に足着かぬメタな部分で、このミステリーの罠に苛まれて行く衣食住営める人間模様とそこに現れる怪奇現象をエログロナンセンスで味付けたまでのメタミステリーなのだ。かといって食うことやその他の文化的観点に主眼を置いた作品ではなく、人間の生死を妖しくも耽美の感覚で描いている。従って、食うことや様々な文化的事象、風景は生死の混在する空間を彷徨う人間存在の隠喩であろうと思われる。盲目の門付け達もしかり、である。
 映画の私見と概要はここまでにして、俳優陣に目を向けるとこれまた凄い。原田芳雄、大谷直子、大楠道代、麿赤児、樹木希林そして藤田敏八。主人
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