いわば世界全体が長期的な時間の中に組み込まれているのだ。過去の遺物は、遺物のまま次の時代へと受け継がれてゆき、やがてそれは、何のために存在するのか不明のまま、無機的なオブジェとして世界に残ることになる。
『アバラ』における「恒差廟」などがそれに該当するだろう。冒頭――――

 その塊はあまりにも古くから そこに存在したために 殆どの人が 
 地形の一部だと信じていた 

 と作品の主要な鍵となる建築物「恒差廟」が説明されるが、現在と過去が混じりあい、一種独特の世界を形成するためにも、この時間の扱い方は特徴的である。
 狂った時間は特殊な世界を形成する。人は成長を止め、機械のみが増殖していく。エロスとタナトスの逆行だ。しかし、これは間違っている。この世界は正常に機能していない。それだけに、どこかで破綻する。その破綻はやがて巨大なカタストロフという爆発を導く事になるのだ。
 あらゆるものの終わり――それが世界の終末だ。そこでは一切の価値、感情、築き上げて来たもの、モラル、時間すらが消える。
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