結城一誠過去作品展示
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あゝ。球体写真二元論・細江英公の世界
結城一誠
NOTE写真

於・東京都写真美術館(東京・恵比寿)。展覧最終日1月28日。舞踏家の土方巽や大野一雄、作家・三島由紀夫。彼らを独特の視点で撮り続けた写真家がいる。細江英公である。
今回の展覧会「球体写真二元論・細江英公の世界」は、その細江英公の60年代から最近までの撮影活動を回顧するものである。作品はモノクロ写真が多い。総数約200点の展示。テーマ毎に8ほどのブースに分かれ、過去発表された細江の写真集などから選りすぐられた作品が展示されている。
まるで石膏のトルソーかと見紛う、裸の女が背中を向け横になっている腰から下半分を見せている写真。囓った林檎を持ってポージングした女の写真。男と女が裸同士で抱き合うシーンを、顔を写さず表情を感じさせないままで被写体にした「抱擁」シリーズの作品。肉体の生々しさを超えた、三島曰く「硬質でアスレティックな美に溢れている」部分に不思議な魅力を感じる。 三島由紀夫と制作した写真集『薔薇刑』からの作品の展示もあった。褌を締めた三島が零時丁度をさした時計を抱え、マドロス姿でポーズを撮っている写真。金槌を持ちながら、ゴムチューブのようなものを咥えたり、体を絡ませている写真。ボッティチェリの「春」と映り重なっている三島の片目の写真。奇異な迷宮譚に浸っているかの如く、展開していく三島の美学と世界観。そして、三島のまなざしの彼方にある遠き夢幻への憧憬。縛り、SM、薔薇の棘、様式美を添え、作家ではない一面を見せる三島の性的修辞としての肉体表現。凄絶な人であったろう三島の美意識を窃視する機会であった。
暗黒舞踏、アスベスト館を主宰した舞踏家・土方巽と作り上げた「鎌鼬(かまいたち)」シリーズは、当時まだ無名だった土方を一躍有名にした作品群である。農村の朴訥な風景に舞い込んだ異質な土方の肉体と舞踏の顛末。その田圃田舎の素朴な空気が伺えながらも、同時に奇妙なエクトプラズマを放出してるかのような土方の姿形の妖艶さには思わず息を飲む。続いて、土方ともに活躍した舞踏家・大野一雄の80年代以降の姿を被写体にした作品の展示。百歳を越えた大野が横たわり静養する傍らを自分の家族、親友、弟子たちが訪れ、夫々の表情を見せている。一見微笑ましくも、壮絶な舞踏家の肉体が弱り果て、静養する姿に彼の舞踏に懸けた生命の曼陀羅を読み取ると、瞬時超絶的な肉体の発する芳香を呼吸している気分になる。
他にも細江の手によるガウディのサグラダ・ファミリア教会の写真や、写真絵本、童話のために撮影した写真など多岐に渡る細江の活動がその作品ともに紹介されていた。いや、日本には好きな写真家が多くいるが、久々に私の脳裏にビシビシ来る、創作欲迸る作品を見たと直感した。細江自信、寺山修司や横尾忠則同様“アンダーグラウンド”と十把ひとっからげに括られてしまう時代の人だが、そういう便宜的な範疇や時代を越えた作品群を目の当たりにしたと思う。

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