結城一誠過去作品展示
INDEX ABOUT INFO CONTENTS ARCHIVE BBS LINK
NOTE: TOP > INDEX > ARCHIVE > NOTE
VIDEODROMEVol.02
by前原一人
NOTE写真

 観ては喰らい、喰らっては観る。
 デッキにヴィデオを入れたなら電気を消して。
 二日間、我々に必要とされるのは視覚神経、それと消化器官。
 それのみである。
 ようこそ、ヴィデオドロームへ。
 任天堂をこよなく愛し最近はギターからWiiリモコンへとネックを握り替えたと俺の静かなるプレッシャーを浴び続けている男KKK。
 前回はヌンチャク捌きで他の者を威圧し続けた赤い猛者。過剰さを追い求め挙句全身から毛髪を一切剃り落としたというヤナーチェフ。
 幼少より鍛え上げた少林寺拳法独自の修行により怪談に昇華させ虚無僧と夜毎バトルを繰り広げているザ・サヴァイヴァー湯魔。
 あらゆるメディアの色物キャラと被ることに最近気がつきこれからの時代はモテだ、を提唱しキャラクターの方向性を一新しようと企んでいる前原。
 そして、寝坊する男、結城。
 クリスマス・イヴ。前夜。以上五名により第二回映画会が開催されたのだった。
 約束の時間30分前。俺は待ち合わせ場所に程近いドトールでコーヒーを飲んでいる。
 俺は軽く和風ミラノサンドを腹に詰める。
 始まりに備えて、である。コーヒーとタバコ。ジャームッシュである。
 時間。着信。そこにはヤナーチェフと湯魔が到着していた。
 クリーニングに出していたスーツを受け取りに別行動をしていたKKKと湯魔の昼食を買いに向かった弁当屋付近で落ち合い一応の面子は揃った。
 この時湯魔は牡蠣フライ定食を購入。良いセンスだ。
 四名で二つのスーパーで一日目のメインディッシュの材料を仕入れ会場へと向かった。
 ちなみに買った材料は干ししいたけ、白菜、豚肉。以上である。これでメインディッシュが何か分かる人がいたなら、通である。
 さて、開場時間より一時間後が開始時間、というのがイヴェントでの常である。
 が、結城は来ない。
 KKKのWiiという未来マシン機能で似顔絵を作って遊ぶ。
 KKKの自画像は異様に似ている。俺はKKKが二人!?と往年のヒーローもののような錯覚を覚えたほどだ。俺や湯魔、出来上がっていたヤナーチェフの顔を手直しし、この場にいない朝宮や140、ふゆせにEJの顔を皆でモンタージュしていく。
 思いのほか似たものが出来上がり仰天する。
 が、結城は来ない。
 この時間を利用し互いのカードを見せ合うことにする。最も緊張する瞬間でもあり、また、ここでのプレゼンテーションはどういった順番でヴィデオを流すかを決める際の重要な意味をも持つ。
 注目はKKK。前回持ち合わせのなかった男が今回何を用意するのか。
 皆の期待が集まる中伏されたカードが捲られた。
 俺、前原が用意したカードはHPラブクラフトを下地にしたブライアン・ユズナ製作、スチュアート・ゴードン監督「DAGON」。マイケル・ワイル監督「ジャンクショット」及び詳細不明の「クリーン・シェーブン」。
 お勧め映画「DAGON」を軸に俺の愛している映画二本を場に合わせて選ぶ、という狙いで選択してきたものだ。
 湯魔が用意したのはチャウシンチー「カンフーハッスル」とサム・ライミ「死霊のはらわた」の二本。一見いずれもメジャー所とも思えるがこの選択に俺は戦慄を覚えた。彼の映画造詣は俺を遥かに上回る。
 中国、カンフー映画に異様な愛情を注いだ男が湯魔である。この二本から俺が読み取ったのは一見入りづらいジャンルへの間口としては最適な二本だ、ということである。
 スプラッタはここから始まったと言われる「死霊のはらわた」とカンフー映画、そのなかでもジャッキーの流れではなくブルース・リーの流れを汲む映画史の先端に位置するエンターテイメント性の強い「カンフーハッスル」。
 皮切りと先端の組み合わせ。見事、と俺は心の中で唸った。
 さて、注目のKKK。俺はヴィデオを見てひっくり返った。ガイ・リッチー「ロック・ストック・アンド2スモーキングバレルズ」。
 そして、ジョージルーカス製作、ジム・ヘンソン監督デヴィット・ボウイ出演「ラビリンス」。
 「ロック〜」は理解が及ぶ。皆も見れるエンターテイメント性の高い選択だ。が、「ラビリンス」。当時誰もが見た。が誰も覚えていない。俺は「ジムヘンソンのストーリーテラー」を好んでいた小学生だった。それでも、覚えていない。なぜ、30近い俺たちが「ラビリンス」だ?俺は大いに悩んだ。
 しかし、である。
 上には上がいる。
 大川隆法「太陽の法」。ヤナーチェフ。渾身の一本である。この選択は際どい。選択のしかたには三パターンがある。
 @皆で楽しめそうなヴィデオ
 A自分の愛するヴィデオ
 Bきっかけがないと今後も絶対に観ないであろう気になるヴィデオ
 KKKの「ラビリンス」はBであろう。ヤナーチェフしかり。が、ヤナーチェフの選択はあまりに際どい。内角ぎりぎりのデッドボールである。
 さて、この凄まじい統一感のないラインナップ。
 我々は慎重な討議の結果上映の順番を決めていった。
 一本目は俺の「DAGON」と決定。
 結城を待つ間テンションを上げるため「レザボアドックス」のオープニングを観ることにする。
 いつか全員でスーツを着込みレザボアごっこをしたいものだ。
 結城から連絡が入り先に「DAGON」の上映を始める。
 主人公のトレーナーにラブクラフティアンにお馴染みのミスカトニックを確認しおおいに喜ぶ。
 真ヒロインの三白眼気味の女優の評価が著しく高い。映画クライマックス付近の結城の到着により今回のヴィデオドロームも本腰が入り始める。
 彼が持ってきたのはキューブリック「シャイニング」。クリスマスに見るに最適だ。
 その頃には晩飯時である。次の上映はカンフーハッスルとし、大いなる食卓へと気持ちを切り替えた。
 あまり世に知られていないがヤナチェフというのは人を痛めつけるのと同様料理が旨い。
 我らの食卓。ヤナチェフ。幸あれ。
 さて、材料だが至ってシンプルだ。
 戻した干ししいたけと白菜、豚肉が中心の鍋にゴマ油を垂らす。
 これで完成(のはず)。
 面白いのはここからである。
 この鍋を喰らう”タレ”は各自が用意するのだ。
 取り分け皿に鍋の汁を多く取り、それに塩と七味で各自タレを作り喰らう。
 一つの鍋を囲むが喰らう味は人数だけ違う。
 これは哲学の認識論的諸問題の良い例証になるだろう。
 5人の人物が目の前でりんごを見ている。
 果たしてここには幾つのりんごが在るだろうか、というあれだ。
 これまでに三度この鍋を試しているKKKのタレを味見。
 唸る旨さ。
 これは悔しい。
 俺の鍋も彼に勝るとも劣らないポテンシャルを感じるも中々そこへは至らない。
 一度安定した旨味を引き出すも善そう度にだし汁は加わるわけでその都度味を調えなくてはならない。
 多少面倒くさく思うかもしれないが、否。
 これがやたらと盛り上がる。
 味の一期一会。
 最高の晩飯である。
 食後の一服を挟みカンフーハッスルをセット。
 俺は同監督の前小林サッカーが未見であるが二作とも気になっていながら見逃していた。
 むう・・・オープニングから面白かっこいい。竜神丸である。
 笑いとコミック的過剰なアクションが肉体の説得力を持って展開される。
 圧倒的に楽しいエンターテイメント。
 ブルース・リーの対抗馬として現れた俳優についての解説などを湯魔コメンタリーもまたこの場での醍醐味であり1.3倍楽しめるのだ。
 我々の心のゲージがマックスになったところでKKK「ラビリンス」である。
 ボウイが魔王を演じ多少の期待をした俺が馬鹿であった。
 これ一本見終わる頃には心のゲージは真っ赤になり肝心のKKK、ボウイ好きの結城に至ってはナップタイムである。
 ただCGではなくジムヘンソンのパペットワーク、マットペインティングによる映像のトリックの妙と美術面では目を見張るものがある。
 俺は久方ぶりに触れるヘンソンワールドに感動を覚えた。
 MCエッシャー展を観た直後のラビリンスというのもシンクロニシティを感じた。
 クライマックスの迷宮はエッシャーが参加しているようでクレジットでも確認できた。
 さて、既に二名が滑落して行ったところで我々の行軍は止まりはしない。
 本日のメーンイベント、「太陽の法」のお出ましである。
 KKKが「のだめカンタービレ(であってた?)」を「のだめエルカンターレ」と勘違いしていた。
 そこから始まってるのか?この選択は。
 一番恐れているのは、「意外と面白いじゃないか」という感想である。
 我々が求めているのは、そう、カルトだ。
 面白くなくったっていい。カルトであれば。
 俺が覚えているのは、金色と宇宙。
 カルトでは、あった。うん。みんなにおすすめだよ。
 で、寝た。
 この日、湯魔はうなされ満足に眠れず睡眠1時間で二日目を迎えることになる。
 翌朝はヤナチェフ、湯魔、俺の順で風呂をいただきこの三人でケーキを買いに新宿へと出かけた。
 クリスマスイヴでもケーキは予約しないで買えるんだねえ。
 やたらと旨そうなタルトを購入し豚丼を喰らい帰宅。
 豚丼と言えば俺には不可解な思い出がある。
 休学で実家にいた頃、札幌でデートをするような仲ではないはずの女の子と豚丼を食った思い出がある。
 これは、一体どういういきさつでそうなったのか・・・。まあ、いい。
 皆が起きているのを確認しケーキとコーヒーとしゃれ込む。
 円形のケーキを5等分するため約70度強で分割し几帳面に分けて行く。
 旨い。
 ツインピークスではドーナッツとコーヒーが有名だがタルトも食いたくなる。
 あれを思い出しながら喰らった。
 そしてこれからのテンションが高まるのを感じつつ、ノリのいいものを、と「ロックストック〜」を選択。
 なんとこれを見ているのは俺のみ。
 湯魔でも見ていない映画が存在するのだ。
 莫大な登場人物が紹介され、ばら撒かれる伏線のために要される前半は多少間延びするもクライマックスのドミノ加減は非常に気持ちが良い。
 この頃のヨーロッパ映画はノリがよく好きなものが多い。
 「ランローララン」や「パイ」、「23」に「ノッキンオンヘヴンズドア」。
 いずれもクールだ。
 グンと高まった心メーター。この内に俺のなんとも言いがたい映画をセレクト。
 今回は「クリーンシェーブン」は取りやめて「ジャンクショット」を。
 なんとも、中途半端な空気で終了。
 まあ、だいたい本気で好きな映画ってこんなもんだ。
 で、晩飯である。
 晩飯にはヒレカツ。
 お前、知ってるか?ヒレカツ。旨いんだよ。
 多少の買い物を済ませ俺は料理に台所に立つヤナチェフに採点をすることにした。
 椅子を置きいかにも料理しづらそうなヤナチェフの逆鱗にいつ触れるかとビクビクしつつポイントをつけて行く。
 今日の対戦者湯魔が母直伝のタレを作るため台所に現れ「俺、婆ちゃんに手紙書くよ」という優しさのアピールに高得点をマーク。
 ヒレカツの衣をつける手伝いなどをしながら料理を仕上げ喰らう。
 麺つゆに酢をいい塩梅で足し火にかけ暖かいたれを用意。
 そして喰らう。
 これが、旨い。
 湯魔、あんたモテルよ。
 俺は調子に乗り豚汁を喰らいすぎ胃が膨張しすぎ座れなくなる。
 豚汁がジャガイモではなくサツマイモということもあり、ジャガイモ特有の崩れたドロっと感がなくバクバク食えてしまったのだ。
 実に美味である。水筒に入れて持ち帰りたいほどだ。
 さて、終電を逃してはならぬ、と後二本のところを一本に減らすことで同意した我々はホラーの金字塔「死霊のはらわた」をセット。
 湯魔はこれを「シリョハラ」と呼ぶ。
 確かに。
 このジャンル巧妙な遺伝子配列を繰り返したのがごとくタイトルが覚えがたい。
 「死霊」「悪魔」「悪霊」「はらわた」「いけにえ」等の組み合わせがややこしいことにある。
 これを略することで記号化し組み合わせではなくラベリングで覚えるのは実に有効的である。
 そうして日本酒を傾けながら我々は最後の映画「シリョハラ」を観たのだ。
 けれども俺はここで日本酒の香りでダウン。
 俺は酒が本当に駄目なのだ。
 風邪も引いたようでアルコールの眩暈とでぐちゃぐちゃになっていた。
 ここから先俺ほとんど覚えてないのです。
 こみ上げる嘔吐感を必死に抑えつつフラフラしながら電車に乗り込み帰宅したのは覚えている。
 家に着くまで何度も吐きそうになりながら、グラグラフラフラして、眩暈がして・・・

CURRENT INDEX
AHEADINDEX
Copyright c2007 FLYER All right reserved.