「I STAND HERE FOR YOU」大槻ケンヂ
アルバム「「I STAND HERE FOR YOU」より
「I STAND HERE FOR YOU これは幻聴でも 妄想でもありません。僕が、みんなに語
りかけているのです――」
上品なピアノソロに始まり、大槻ケンヂの語りから始まる「青春の蹉跌のテーマ」が収
録されたセカンドソロアルバム。このアルバムは、この一曲のためにあると言っても言い
過ぎではないと思う。この曲から話を始めよう。
僕はそのころ、もう大槻ケンヂからはすっかり離れて、さほど興味もなかったわけだけ
れども、バンドのメンバーのtakuが運転する車の中でこのアルバムを聴いた。
「この先どんな事があったって平気 絶対 ここにいるから 俺が」
普通の顔では言えない台詞なんだけれども、大槻ケンヂの語りは、もう彼の音楽にとっ
ても必要で、筋肉少女帯に親しんだ者にとっても必要な、中毒みたいなものである。
それは決して深いメッセージでもないし、聴いている者を明るい世界に導いてくれるわ
けでもない。中学生で初めて筋肉少女帯を知って以来、こちらの耳が肥えてしまったせい
で、この曲のアラというか、隙も見えてきてしまう。まずバックで流れているシンセの音
がどうしてこんな場当たり的な安い音にしたのか、という事。聴いているうちに、ニュー
ミュージックのようなバックがどうしても耳についてしまうのだ。
抑制されたのか、考えていないのか、ドラムは本当に必要最小限しか動いていない。決
して上手いドラムではないと思う。バスドラとスネアだけのシンプルなビートに、徐々に
徐々に、ハイハットが加わる瞬間は素晴らしいけれども、最近では、もっと上手いドラマ
ーはいっぱいるし、そこら辺の力勝負のシンプルさには、どうしても時代を感じてしまう。
それでも、そういった欠点、とも言えるようなものを抱えつつも、この曲は繰り返して
聴いてしまうのだ。おそらく、曲中の語りが彼の詩の中で一二を争うぐらい素晴らしいか
らだと思う。それは癒しなのかどうかも分からないけれども、アルバムの中でこの曲だけ
僕は何度も繰り返し聴いた。
「I STAND HERE FOR YOU これは幻聴でも 妄想でもありません。僕が、みんなに語
りかけているのです――」
アルバムごとに、妄想を売りにしていた筋肉少女帯ではなく、これは大槻ケンヂ個人の
メッセージなのだろう。
「青春の蹉跌のテーマ」若いかもしれないけれども、僕はたまにCDを取り出して心を澄
ませるのだ。それは確かに、何かを伝えているから。
まあアルバムがこの曲で終われば美談なのだけれども、全12曲のうち「青春の蹉跌の
テーマ」は8曲目。このあと井上順の「お世話になりました」のカバーが始まって、トホ
ホとなるんだけど。
そう、あれ。あのヒロミのB―21スペシャルがカバーしていた奴。たまりませんなあ。
|