水銀魔術団
「沈没小屋」他
「あなたは信じないかもしれない。だが、私は確かに見たのである。銀河の果ての水銀惑星から飛来したバンドが、地球で一日限りのコンサートを行ったのを。」
「彼らは『水銀魔術団』と名乗った。そして、宇宙の無限を歌った。それは、まるで彗星の様に激しく、きらびやかで、切なかった。」
彼らが公の場に紹介されたのは96年残陽社発刊の「残り陽」第三号が始めてのことだった。
彼ら水銀魔術団が地球に飛来し早10年。
今ではすっかり知る人ぞ知るカルトバンドとなってしまったが、彼らの本来の目的はお馴染みののナンバー「水銀魔術団」でも高らかに宣言されている通り。
そう、地球の侵略である。
この10年間で彼らがどれほどの侵略に成功を収めたか、彼らの侵略がいかなる形で行われてきたか、初心者にも分かりやすい「水銀入門編」をお送りしたいと思う。
それでは、準備は良いであろうか。
おういえええええ。
彼らの活動の痕跡は主にヴィデオテープで確認できる。 約30分の全編アドリブによるライヴと1時間のインタビューや、時には楽曲ではなく本格ミステリドラマをカラオケ店にて展開するなど、彼らの活動にはバンドという束縛はないのだ。
いや、節操がないのか。
もとより人間ではないのさ。
繰り返し言おう。
彼らは遥か銀河の彼方、水銀惑星よりやって来た「水銀話術団」もとい、「水銀魔術団」なのだ。
彼らの構成員は現時点ではこう告げられている。
水銀魔術団斬り込み隊長「水銀一号」。
水銀魔術団斥候「水銀二号」。
あ、本隊がいないぢゃないか。
まあ、いい。
一向に侵略が進まないため水銀惑星より送られてきた増援部隊、「元素記号K」、「元素記号Y」。
そして、長い間水銀二号が中学生の頃美術の時間に友人星君をモデルに作られた頭像「ダニーボーイ」。
ダニーボーイに歴史あり。
かつては星君の頭像であったダニーボーイは後に、水銀二号の引越しと供に苦悶に歪む手のひらサイズの頭骨像となり、遂に現在は人型の姿を得、次のライヴに備えている。
忘れてはならないのは随時募集している「水銀青年団」の存在だ。
今風に言うならば、サポーターというものであろうか。
これは現在も受け付けているという。
是非我こそは、という方は掲示板に一方願いたい。
さて、彼らのメッセージは三部構成でなされており、前半部一号がギターボーカル、二号がドラムを勤め、一号の「ああ、なんか暴力的な気分になってきた・・・。パート交代だ!」の合図に、ギターボーカルを二号、ドラムスを一号が担う第二部へと突入する。
この瞬間の二号の怯えた表情は必見だ。
何せ二号はギターが弾けない。
毎度弦を切り奇妙な弾き方ゆえ指から出血を流した後、再度パート交代を行い第三部、締めへと取り掛かる。
「沈没小屋」、「地獄節」、「地底銀河」、「惨殺密室」、「大陸消失説」、「失明小隊」以上7本が現在この惑星上に存在している。
初期水銀魔術団の水銀2号はまるでAV男優だ、と影で囁かれているが、そもそも彼ら水銀星人には性別というものがない。
一つラビア、否トリビアを。彼らの惑星は水銀でできており、惑星上を覆う水銀の海の波頭から飛び散った飛沫の一つが時には水銀一号と呼ばれ、二号とよばれているだけなのだ。
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