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『プライマー』 [PRIMER]:2004年:77分:アメリカ
「プライマー」ジャケット

+INTRODUCTION+
エンジニア出身の新人シェーン・カルースが監督・脚本・主演を務め、低予算ながら2004年度のサンダンス映画祭でカルト的人気を集め審査員大賞を受賞したSFサスペンス。タイムマシンを発明した2人の若者が、時空のパラドックスが引き起こす予期せぬトラブルに巻き込まれていくさまを、パズルのように複雑な筋立てと構成で描き出す。

+SYNOPSIS+
アメリカのとある郊外の街。自宅のガレージでオフタイムを利用して研究開発に励むエンジニアのアーロンとその友人エイブ。ある時エイブが超伝導を利用した画期的なアイデアを思いつき、その装置の開発に乗り出した2人は、思いがけず小さな箱の中に時空の歪みを生じるワームホールを作りだしてしまう。そこで、箱を人が入れるほどの大きさにしてタイムトラベルをすることにした2人。そして過去に戻って株で大もうけするのだが、タイムトラベルのタブーである分身との遭遇が、2人の運命を大きく変えてゆく…。

監督
シェーン・カルース
脚本
シェーン・カルース
編集
シェーン・カルース
出演
シェーン・カルース
デヴィッド・サリヴァン
ケイシー・グッデン
キャリー・クロフォード
アナンダ・アダヤヤ
サマンサ・トムソン
チップ・カールス
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REVIEW by 前原一人

 ほぼ映画製作に関わる役割を一人でこなした元エンジニア、シェーン・カルースによる初監督にしてハードSF。
 SFと言うと、僕は静かな映画を求めるのだけれども、まさにこの一本が当たり。
 久々に観ている間中静かな興奮に包まれっぱなしの映画だった。
 ハードSFといっても広がる風景はアメリカの郊外。
 時代は現代。
 出てくる人間も素朴だ。
 スペースシップもレプリカントも賞金稼ぎも悪の帝国も出てこない。
 静かで濃厚なSF映画と云うとアンドリュー・ニコル「ガタカ」やダーレン・アロノフスキー「π」なんかが思い浮かぶがそれらに匹敵する緊張感と雰囲気を持った良作だ。
 ガレージに灯が点き、狭い4人のラボの扉が開き誰ともつかないナレーションが静かに入る。
 「彼らは勤勉だった。几帳面で勤勉でもあった。だが凡人ぞろいでミスしたり怠けたり内輪もめを繰り返した。かつては有能だと言われた時もあったのだが・・・。
 四人が行っていた研究は難しくも新しくもない。だが応用力に長け必要な物は有り物から作り出していた」
 導入のこのシーンから、恐らく観る者の多くが彼らに共感し、この素朴な思考実験とも言えるSF的迷路に難解さを覚えつつもぐいぐいと引き込まれていくだろう。
 この監督さん、「何かしている」風景を撮るのが実に上手い。
 狭いガレージで基盤をハンダで焼いていく作業工程や小さいテーブルで配送先への商品のパッケージング作業。
 公私混同気味ながらも起業を目指し交わされるミーティング風景。
 キッチンでのだらしない会話。食事風景。
 暇つぶしのテーブルゲーム。
 日常描写が心地よい緊張感を維持しながらフィルムに焼きつけれている。
 仲間四人のうち主人公エイブとリーダー格のアーロン二人が重力低減を可能にするデバイスを組み立て実験を繰り返す。
 アーロンは実験の傍らエンジニアとして会社に勤め、妻帯者で幼稚園に通う娘もいる。
 エイブの本職は定かではなかったが、恋人がおり、その父親は投資家で彼らの行く末を握っている。
 彼らはこの時点でおよそ自分の人生と呼べるものを掴んでいる。
 彼ら二人の実験と発見は互いにその人生を手放すよう強い始める。
 実験で偶然得た発見が何を示すか。
 それを説得力をもった「画」で観客に提示するのは難しい。
 そこで用いられた思弁が実に凝っていて説得力があるのだ。
 一体何を発見したのか、それが思弁により提示され、そして次には「画」として観客に提示される。
 「とにかく次のものをみてくれ。決して冗談でもイタズラでもない。観ても叫んだり駆け出したりするな。きっとトリックだと思うだろうが、誓って言う。これは事実だ」
 とエイブがアーロンに「それ」を見せるため双眼鏡を渡す。
 双眼鏡の向こうには、驚くべき光景が捉えられていた。
 この驚嘆の事実が単に今作プライマーの思考実験のビジュアル化に留まらず、全体のメーンアイデアとして活きてくる辺りが非常に上手い。双眼鏡に見えた驚愕の事実が彼らにいかに関わってくるか。
 彼らが発見したその事実で何を企てるか。
 細かに配慮されたプロットと伏線。
 思弁性に飛んだ会話。
 素朴で自然な登場人物。
 絶妙なエンディング。
 レンタルする際にはパッケージ裏の解説も読まずに前知識ゼロで是非見ていただきたい。
 彼らの発見にともに驚き、喜び、企て、追い込まれていく緊張感を是非味わってもらいたいからだ。

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