話していたところさ」と返すのだ。
が、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」ではそのあざとさは感じれられない。
比喩ではなく暗喩を用いた演出に切り替わった気がするのだ。
細々な暗喩がどんどん積み重なり暗喩の重さに耐え切れなくなったかのように物語は中盤から新たな展開へと突入する。
ここに来てヴィゴがトムとジョーイという「こちらとあちら」を行き来する様を見せ付けられる。
これは新しい。
クローネンバーグは常に「どちらか?」という疑問符を主人公に付与していた筈だ。が、ここでヴィゴは疑問符を持たない。
従来ならば「俺はトムなのか?、ジョーイなのか?」とヴィゴは悩んだはずだ。が、ヴィゴは言い切る。
「ジョーイではない」ゆえに「トムなのだ」と。
しかし、画面ではまざまざとジョーイが息づきはじめ、お前は一体どっちなんだ?と観客の俺に疑問符が付き纏う。
エンディング、全ての態度はあまりに曖昧で一体どちらかなのか分からなくなってしまう。
「こちら/あちら」の新しい設問がなされているかのようだ。
物凄く静かな驚愕のエンディング。