もう先月の話になってしまうが、このFLYERサイトにも時々顔を出してくれるhalu出演のアコースティックギターコンサート「アコースティック同好会Autumn Live2006 2nd Anniversary Slow Life,Slow Music」のため、10月22日栃木県の鹿沼まで前原一人氏と参じた(本州最北端自己到達記録更新である)。湘南新宿ライン、東北新幹線を使って宇都宮まで出て、そこから一時間に電車が一本あるかないかのローカリーな日光線に乗換え、会場のある鹿沼へ。行政の条例かなにかで、この鹿沼という町はあまり高層で大仰な建築物を建てられないそうであり、なるほど鹿沼の駅前ロータリーに降り立つと、町並みの向こう側の山々が広がって見えるではないか。のどかな…という形容詞が似合う。大きな建物といえば、イトーヨーカドーかその会場であるセンターホールぐらいだとhaluから聞かされていたので、まさにそうなんだなあと前原氏と駅前のベンチで煙草を喫みながら暫くロータリーから延びる駅前通りの方を眺めていた。haluが車で迎えに来てくれ、会場近くのイトーヨーカドーで飯でも食おうという話になったのは良いが、肝心のヨーカドーは潰れて閑散とした地方廃墟と化していた。haluは苦笑いをしながら、そこから程近いFという地方デパートまで送ってくれた。我々はそこのレストランに入り、何でかは分からんが心中話(たぶん馳走→幸福感→心中覚悟、もしくは牡蠣→食中り→中毒死という連想だったのか)を肴にカキフライ定食を平らげた。この時点で私自身、とにかく初めての町で日頃の仕事疲れもあり、一切の意図も現実感も掴めずもう何が何だか分からなかった。Fの催事場のビデオ市で閉店落ちのレンタルビデオが激安で叩き売られてたので、私も前原氏も各々意味ありげな作品を2本ほど買い、会場まで徒歩で向かった。キャプテンパワー、グラマラスキラーズ、犯罪心理捜査官、ロストハイウェイ。
会場は情報センターと冠した公共施設の五階であった。思ったよりも広い会場に驚いた。halu以外のアコースティックギター同好会(今回はこのコンサートイベントだったのだ)の面子にも驚いた。アンケートとプログラムを受付で貰い、座席は最前列の左端2席を選んだ。haluと同好会の会長を務めるという青年(以下会長さんと呼ぶ)が挨拶に来る。いやあどうもどうも、という感じの一幕があり、メンバーの友人連の到着が遅れているので開演時刻が少し延びるという知らせも同時に受けた。挨拶が終わってからhaluがコンサートで使用する自前のアコギを見せてくれる。Yairiの酩があった。ポールマッカートニーも愛用するあの世界のヤイリギターなのだ。そうだ。彼女はヤイリを持っている、ということを随分長い間忘れていたので、まるで初めて聞かされるかの如く驚いてしまった。haluの緊張がひとしきり伝わってきたところで、外に出て開演前の一服。予告通り、少し遅れ気味の開演。メンバーの登場は一人ずつ会場に現れてマイクの前に立つという趣向に凝ったものだった。
初っ端の演奏はメンバー全員による「オブラディ・オブラダ」。証明器具や音響などは当然借り物だったがその中にも手作り感があり、特に舞台前方の演者専用ライトなどはコーヒーの缶と市販のプラグやソケットで作った御手製のものだという(演奏途中、そのコーヒー缶ライトの一つから発煙するというヒヤヒヤハップニングはあったが)。同好会のメンバーは不完全ながらもそれぞれの歌と演奏をこなしていった。仰天したのは皆、難曲を選んでいるということだった。いよいよhaluの演奏が前半部終盤に始まった。MCは無く、オリジナル曲「水槽」「錯覚」などを含んだ6曲を次々と弾いていく。中でも、会長さんとのデュエット「灰色の瞳」は印象的だった。かつて加藤登紀子と長谷川きよしが歌ったこの曲は、よく母親の持っていたカセットテープで聞いた歌だった。期待のオリジナルは特徴的な昏い音色だが、感情の籠った力強い歌とメロディ、そして歌詞ではhaluワールドが展開されていた。この人は役者だなあと思ったのは、語らず坦々と演奏したというところにもあるが、感情の伝え方にあった。ジョニ・ミッチェルやジョーン・バエズ、中島みゆきや山崎ハコを想起させるフォークのあの独特の風情で語りかけるように歌うあたりはまさにそれが活かされていた。圧巻だったのはキング・クリムゾンの佳曲「MOONCHILD」のカバー。こんな難しそうな曲も弾いてたのだ、彼女は。会長さんの朗読から始まる演奏などもあり、演出も凝っていた。haluの演奏後、前半部が終わった。休憩中、一服喫んだ後に少しhaluと話す。小生の「私がESPなら煙上げてたライトをテレキシネスで爆発させてた」という下らない話で多少話の腰を折ったが、素直に演奏の感想を述べるにはある程度時間が必要だった。後半部序盤、haluを含めたcorsageという同好会の女性陣が組んだユニットが切ない歌を聞かせ、haluはエレキを弾いていた。そうエレキも弾くのだ、彼女は。その後も、和田アキ子をフィーチャーしたり、会長さんの玄人振りが垣間見える特徴的な演奏が続いた。最後は全員による「カントリーロード」。おぉこれぞアコースティック。おぉキャロライナ。
選曲や演出の妙が功を奏して、観客も合いの手の手拍子を入れたりしてイヴェント自体飽きることはない素敵なものだった。終演後は記念撮影のカメラのシャッター切り役を命じられて、インスタントカメラを構えて同好会のメンバーを撮影したが、その時、彼らはほぼ同年齢ながらにこういう企画を起こしてるんだなあ、と感心した。
イヴェントの後片付けも目処が付いたらしく、haluが宇都宮まで送ってくれるというので、彼女の運転で宇都宮駅前まで送って貰った。その途中の車内ぐらいしかhaluと話をする機会もなかったので、色々話した。同好会のこと、宇都宮のこと、プログレ、野口雨情(栃木県出身)、競馬。競馬?
そんなこんなで、haluの自宅の前を経由して宇都宮駅前で約束してた自作の絵を渡し、彼女とは別れた。
さて、はるばる宇都宮まで来たのだ。クライマックスは、餃子である。入ったのは「宇都宮餃子館」。ストレートで平素で直球勝負な店名である。ここでニンニクの効いたスタミナ餃子他三種の盛り合わせと白飯を食らう。haluが薦めてくれた「みんみん」は行列が出来てたので一度は諦めたが、結局、店内では食えなかったものの、土産で買って前原氏と駅構内でつまんだ。宇都宮は餃子の街。犬も歩けば棒に当たる。食の心理学第一人者前原と自称ハードボイルド食の伝道師結城も歩けば餃子を食らう。そういう街なんだなあ。こうして「前原・結城のぶらりいい店味な店」は無事撮了したのである。
贅沢にも帰りは新幹線で筒井康隆を読みながら東京まで行き、新宿で茶を嗜んで雑談した後、前原氏と別れた。長い一日であった。そして、華麗なる食紀行であった(メインはコンサートです)。
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