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怪優考。
by結城一誠
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このコラム、仕事の休憩中に書いてます。最近、或る俳優に注目してる。いや、正確には最近ではないな、結構前からか。生瀬勝久(なませ・かつひさ)、ギョロ目が印象的ないわば性格俳優である。元々は劇作や演出もこなす舞台出身の俳優なのだが、最近ではすっかりテレビの露出が多くなった。「TRICK」のヅラ刑事役や大河ドラマでお馴染みである。彼はどちらかといえば喜劇役者であり、NHKのコント番組「サラリーマンNEO」や民放のバラエティに出演する程コミカルな演技を目にする機会が多い。この人に日産自動車CEOカルロス・ゴーンの真似をさせると面白い。ヅラを被り、鼻を装飾して、一見風貌は似てなくもないが、明らかに本人仕様でないオーバーリアクションがやけに可笑しい。竹中直人や本田博太郎のような俳優も、一癖も二癖もあって目を引くのだが、生瀬はまたそれとは異なる胡散臭い存在感を醸し出しているんだなあ、と彼にも若干怪優の匂いを感じる。
怪優とは読んで字の如く、その容貌や行為が“怪しい”演じ手である。私の考える怪優とは、湿った空間に放られたシリカゲルのような存在で、目立つことなく主役級や場面構成員を活かす(又は殺す)濃密な演技の持ち主である。もしくは圧倒的な存在感で、場面のトーンを左右する俳優と言えようか。勿論、その人一人でも十分怪しい存在。近年、ノリの良い俳優は多い。しかし、並外れての怪演率は薄い。至極怪奇な演技というものをあまり感じなくなったのである。怪優といえば、古くは岸田森、天本英世、藤原釜足、成田三樹夫、伊丹十三、石立鉄男、白石加代子、岸部一徳、小松方正、細川俊之、石橋蓮治、近年では有薗芳記、片桐はいり、佐野史郎、嶋田久作、田口トモロヲと名を挙げれば切りがないが(海外ならジャック・ニコルソン、ゲイリー・オールドマン、ジョン・マルコビッチなどがそれに値するのだろうが、もっと思い出せばいる筈だ。ちなみに八名信夫、丹古母鬼馬二のような悪役とは異なると考えるのでここでは別格視する)、その中でも凄いのが植木等。私自身、幼き頃から彼を敬愛して止まないのだが、この人は凄い。今でこそ戦後高度成長ニッポン無責任昭和元禄の象徴、というイメージは消えないが、元来は僧侶の息子ということで極めて真面目な人なのだそうだ。彼は中等(なか・ひとし)、平等(たいら・ひとし)などと何人かの等を“無責任”シリーズの映画の中で演じているのだが、ここでの植木氏のテンションは正に平時の有頂天を通り越した狂躁状態で、それはかの我輩はカモである、マルクス兄弟のアナーキーな笑いを彷彿させるのだ。ハイ&ドライに進行する映画の時間はまさに口を開けたままで観ていられた、私の場合は。
思う所、喜劇俳優は即ち怪優である、とは言えないだろうか。それは彼らの、無秩序に統合失調しながらも軽やかな演技、同時に観る者だけでなく共演者さえも畏怖させるその体が、スラプスティクや喜劇の核となる肉体の力学的側面や時に洒脱でかつ脱格的な皮肉や機知のオンパレードから滲み出た、まるで憎悪に裏打ちされたかのように展開されているような、そんな喜劇における核心の密度の濃さを痛烈に感じさせるものだと思うからなのだ。
生瀬氏の話に戻れば、劇団時代は槍魔栗三助という名で活躍していたという。その名も随分可笑しいが、この人の発声のヴァリエイションと変顔の技術も相当可笑しい。可笑しいだけなら、怪優とは言えないだろうが、軽妙に他方に露出し、不祥事も併せ電波の怪奇化の一役担うNHKの顔役をもこなす現在では、もはや私の中では怪優の一人だ。今回は怪優についてコラムを書いてみた。あなたも私的に怪優を見つけて、その醸し出される深い霧に彷徨うといい。

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