【喜怒哀楽の蜃気楼。(イッセー尾形スタジオライブ)】
14日、日曜日夜のNHK「芸術劇場」はイッセー尾形のスタジオライブだった。俺の大好きな演目「幸せ家族」に始まり、「バーテン」「老婦人」「大家族」、そして初公開の新作「ベテラン俳優」の全5本。今年はイッセーが一人芝居をはじめて25年目の節目の年だという。俺に取って、この人の魅力はエラく計り知れない。イッセーは「上海バンスキング」でお馴染みのオンシアター自由劇場出身で、建築現場の鳶職やバーテンダーなど数々の職歴を通じて、身を持って取材した要素を編み込んだコントと呼ぶには軽薄すぎてちと気が引ける一人芝居を演じながら、数々のテレビドラマ、映画で癖のある演技で存在感を出している…という紋切り型なプロフィルを示すまでもなく、最近では海外の評価も高い、日本では稀有にユニークな俳優の一人だ。
俺に取ってこの人への憧れは絶えない。というと、貴様は俳優でも目指してるのか?と言われそうだが、その憧れの源流は彼の独り遊びのような演技と、それを公衆に向けて公演としてやってしまうこと。つまり、極私的な窃視のフレームを観客を前にした舞台で小出しにでも一気呵成にぶちまけてしまうことにある。今考えると芸達者の製造工場だった「お笑いスター誕生」出身で、とんねるずや竹中直人、コロッケらとは一線を画したネタの深さと濃さは、本当に恐れ入る。イッセー一人なのに、周りを取り巻く人物像が滲み出て来るのも心憎い。はしゃいで笑える舞台なのかも知れないが、それを目の当たりにしたら本当は泣いてしまいたい。彼の演技は「イッセー尾形が見たい!」や「止まらない生活」、「都市生活カタログ」などの映像諸作でいつでも観ることができるが、実際には本物を観に行きたい。好きな人は俺と一緒に行って観よう。
“神経症的な東京”を悲喜交交に体現した、と最早言えるんじゃないか、彼の演技は。と軽はずみに言ってしまうが、俺が尊敬する人の一人であり、実際に俺が現場で働いてても、ちと間違った救済を与えてくれたままで、同時にベロを出され、背中で滑り落としてく存在なのだ。救っちゃいねえぞ、とでも言うように。だから、それが俺の一番の励みになる。喜怒哀楽で親身に我々に近付く一方、実はそれは川面に映ったイソップ童話の肉、のような蜃気楼だったりするのだろう。だから、流した涙も即座に乾くのだ。だから、惹かれるんだろうなあ。
ちなみに俺の結城一誠という源氏名が、彼の名から来てるというのは全くの嘘なのだ。
(Y.K.)