筆者近影 【LEON,LEON,LEON…】
友人I氏から「電車男になれなかった男」のエピソオドを聞いたその日の深夜、下北沢から帰る小田急車内で私が見掛けたこと(多少脚色加えつつ)。
電車が登戸を過ぎたあたりの車内。モスグリーンのトレーナーを着た白髪の中年男が息なり「黙れ!」と怒鳴った。突然の怒声に驚いてその男の立っている方向を見ると、その中年男の前に座ってた泥酔のサラリーマンが「おまえ、なんだよ。」と空回り気味に切り返す。中年男「回りに人がいるだろうが!」。サラリーマン「なに?おまえがうるせえよ。おまえやるのか?」。中年男「黙らねえなら出ろ!」。サラリーマン「おまえがでろよ!」。中年男「お前、若造の癖になんだその態度は。何て口の聞き方するんだ!」。サラリーマン「おまえだって、なんだそのからだは。なんかもんくあんのか。やるか?」。中年男「おう、やってやるよ。」。サラリーマン「でるか?」。中年男「おう、出るよ」。サラリーマンはぐらかして「おまえ、あれだろ、あれ、んー、あれ、ほうていかなんかのあれだろ?」。中年男「何?」。サラリーマン「きょうせいれんこうしろよ。おれを、きょうせいれんこうしろよ。」中年男、なあに言ってるんだよ…という呆れ顔。(一部略)サラリーマン「どうせねんきんもらってんだろ?」。中年男「まだそんな歳じゃねえよ。」。臨席の男、泥酔のサラリーマンに向かって口パクで「パカ。パカ。」とファンデーションコンパクトを開けた音のように囁く。更にこれぞ喧嘩という丁丁発止が続く。そこへ突如、髭を蓄えたジョンカビラみたいな仲裁者志望の男。ジョンカビラ「まあやめましょうよ。ビークワイエット。オーケイ?」みたいなことを言ってたのかな。それに対し、サラリーマン「あいむそーりー。いえすあいどぅ。そうですね。すいません。」。一件落着。中年男を宥めるジョンカビラ。中年男、黙って赤いジャケットを取り、次の駅で降りる。いつの間にかジョンカビラもいない。サラリーマン、一人でぼやく。「なんだよ、あいつぁ。」。これが顛末。ただそれだけの事だったが、これはとんと御無沙汰だった臨場感たっぷりの立体劇場。
ここで一首。
《チョイワル風 ならば成るのか 仲裁も 髭さえあれば 佳いわけじゃなし》毬郎。
(Y.K.)